来週友人の結婚式の為、美しいドレスを着るぞという決意のもと、
数週間前からダイエットに励んでいる彼女が、夜食を食いだした。
いつもなら「た…食べたいんですが…なにか」とこちらを伺うように
見ながら、結局自分が『ダイエット中だろ』と諭すと我慢したりしていたが、
今回は様子が違う。
知らない間に台所に行ったかと思うと、すっと部屋に入って来、見ると
ドンブリ一杯のご飯と卵を持っている。あまりの自然さに彼女が
ダイエット中であるという事実を一瞬忘れた。達人の動きである。
「ダメじゃん」と声をかけようとしたが、鮮やかな動きでドンブリに
卵を割り入れる動作とその眼光は、「邪魔をすれば斬る」というような
無言の気迫を感じ、声を喉の奥に押しとどめる。
とてもうまそうに卵かけご飯を食べる彼女にようやく声をかける。
「…歯を磨くんだよ。」
その後彼女は満足げに眠った。